『あい 永遠に在り』母のように、故郷の山桃のように。夫を強く支えた妻の生涯【書評】

当記事にはプロモーションが含まれています
あい アイキャッチ
この本をおすすめしたい人
  • 蘭方医 関寛斎の妻、あいに焦点をあてた物語を読みたい人
  • 関寛斎の人生に興味のある人

≪ご注意ください≫これより先はネタバレを含みます

スポンサーリンク
目次

概要

タイトルあい 永遠に在り
著者髙田 郁
出版社角川春樹事務所
本の基本情報

上総の貧しい農村に生まれたあいは、糸紡ぎの上手な愛らしい少女だった。
十八歳になったあいは、運命の糸に導かれるようにして、ひとりの男と結ばれる。男の名は、関寛斎。苦労の末に医師となった寛斎は、戊辰戦争で多くの命を救い、栄達を約束される。
しかし、彼は立身出世には目もくれず、患者の為に医療の堤となって生きたいと願う。あいはそんな夫を誰よりもよく理解し、寄り添い、支え抜く。やがて二人は一大決心のもと北海道開拓の道へと踏み出すが…。
幕末から明治へと激動の時代を生きた夫婦の生涯を通じて、愛すること、生きることの意味を問う感動の物語。

引用:楽天ブックス 内容紹介

本を読んだ感想

あいと寛斎 夫婦の信頼

とにかく、この夫婦の互いへの信頼は深い。

18歳で関家へ嫁ぐことになったあいは、この先は寛斎の母に代わって、そして山桃に代わって彼を守り続けることを密かに決意します。

まだ幼い頃、母を亡くした寛斎が山桃にすがって泣く姿をあいは見ていたのです。

ふたりの暮らしは波乱万丈といえるものですが、その誓いの通りあいはいつでも前向きに寛斎を支えます。

苦しいときは料理を工夫し、節約し、機を織って反物を売る。

寛斎が行くと決めれば故郷から遠く離れた徳島へもついていき、寛斎をいつでも信じ続ける。

そして晩年には北海道にまで一緒に行くのです。それも、医学を離れ未開拓の地を拓きたいという夫の意志を尊重して。

ふたりは徳島に築き上げた地位を捨て、医院をたたみ、老いた体には最も過酷な道をゆく。

どうしてもその望みを遂げたかった寛斎は、あいに離縁を申し出ます。

あいはもちろん理由もわからず戸惑いますが、「この人のことだから、きっと私のために言っているに違いない」と思い直すのです。

表だけを見ればわがままとも、道理の通っていないようにも見える寛斎を、ここまで理解できるのは妻・あいしかいません。

そして寛斎も、あいだけは自分をわかってくれると信じています。

だからこそ、寛斎は自分の夢に向かって迷いなく進めたのでしょう。

あいは北海道に移住してから心臓の病気が悪化し、自身の寿命の終わりを感じつつ夫を遠方の農場へ送り出します。

互いにこれが最後になるとわかっていて、特に何も言葉も交わさずに別れる…とてつもない信頼だと思いませんか。

こんな夫婦のかたち、理想といってもいいかもしれません。いえ、もはや夫婦を超えて強く結ばれた同志のようなふたりですよね。

関寛斎にとっての濱口梧陵の存在

寛斎の人生において、とても大きな存在となった濱口梧陵。

千葉・銚子で出会い、その後生涯を通して互いを強く支え合うふたり。

特に寛斎は、窮地をたびたび救ってくれる梧陵に深い感謝と尊敬を抱いています。

船の事故により関家の財産が全て消えてしまったときも、徳島へ家財一式を手配し生活を立て直す基盤を作ってくれました。

濱口儀兵衛家(現・ヤマサ醤油)の当主だった梧陵だからできたことではあったとしても、互いに確かな信頼があってこそですよね。

お互いに恩義を抱き、何かあれば恩返しをしよう、支えようとする出来事がたびたび物語にも登場しています。

それだけでなく、梧陵は寛斎に生きる指針を示した人でもあります。

目の前のことではなく遠くの目的を目指すよう、との言葉は、銚子を離れる寛斎とあいの胸にずっと在り続け、夫婦を支え続けました。

梧陵はとても賢く、深い優しさをもった大きな人。多くの描写からそれがよくわかり、私は梧陵に対しても興味がわきました。

母性、故郷を象徴する山桃

物語を通して印象的に登場するものがいくつかあり、その中でも山桃は柱として中心に存在しています。

亡くした母を山桃に見て、その幹にすがって泣く寛斎。その姿を忘れられず、寛斎を生涯守ると誓うあい。

どこへ行っても庭に山桃があれば安心し、故郷を思っては苦境を乗り越えます。

亡くなるとき、あいは自身の下肢が山桃になっていくのを見ました。

私は山桃になる。そして昔見たあの山桃のように、母のように、寛斎を守り続けることができるという喜び。

山桃は寛斎だけでなく、あいの苦しいときもそばにありました。

母、母性の象徴としてずっとそこにある山桃。

物語の中にはずっと、山桃の野生の生命力、豊かに包み込んでくれる強さが満ちていました。

納戸を出て縁側へと足を向ける。弱い雨脚越しに、姿の良い山桃の樹が一本、すっくと立つのが見えた。天へ天へと伸びる枝葉に粒々とした赤い実が覗く。縁側から庭に下りて、山桃の傍に歩み寄ると、あいは腰を屈めた。辺り一面に完熟した赤黒い実が落ちている。袂から手拭いを引き出すと、雨に濡れた実をひとつ、そっと拭って口に含んだ。幼い頃から慣れ親しんだ、懐かしい甘い味がする。郷里の前之内の風が身体の中を吹き抜けた。
どれほど嘆いたところで、失ったものが戻ることはない。
それほど見栄を張ったところで、この身を流れるのは間違いなく百姓の血。それを恥じることなどない。
母や祖母、その前の代から延々と、貧しさに耐え、力強く生き抜いてきたのだ。恐れることなど何もない。

引用:『あい 永遠に在り』

おわりに

あいはずっと寛斎に寄り添い続け、北海道にてその生涯を閉じます。

彼女がのこした遺書があるのですが、それを読んでまた、あいの心の美しさに触れたような気がしました。

あいはずっと寛斎を守り続け、彼の夢のために役に立ちたいとずっと思ってきました。死ぬときでさえ。

あいだけでなく、寛斎にもそんな思いがあったからこそ二人は連れ添い、たくさんのことを成し得たのだと思います。

日本人らしい仁義、感謝、愛情の示しかた。

強く熱く、それでいてすっきりと潔くかっこいい生きかた。とても気持ちのよい物語でした。

電子書籍で読みたいあなたには、Kindle Unlimitedがおすすめ
◎30日間の無料体験期間あり
◎いつでもキャンセル可能
◎月額980円で200万冊以上が読める

スポンサーリンク
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

Comment

コメントする

CAPTCHA


目次