『あのこは貴族』息苦しい、でも強く自由に歩きたい。女性たちの幸せ【書評】

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この本をおすすめしたい人
  • 東京の上流階級の暮らしと、それゆえの葛藤や悩みを知ってみたい人
  • 結婚・仕事・生きかたについて悩むすべての女性

≪ご注意ください≫これより先はネタバレを含みます

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目次

概要

タイトルあのこは貴族
著者山内マリコ
出版社集英社
本の基本情報

東京生まれの華子は、箱入り娘として何不自由なく育てられたが20代後半で恋人に振られ、焦ってお見合いを重ねた末にハンサムな弁護士「青木幸一郎」と出会う。
一方、東京で働く美紀は地方生まれの上京組。猛勉強の末に慶應大学に入るも金欠で中退し、一時は夜の世界も経験した。腐れ縁の「幸一郎」とのダラダラした関係に悩み中。
結婚をめぐる女たちの葛藤と解放を描く、渾身の長編小説。

引用:Amazon商品ページ

本を読んだ感想

潔く賢い美紀、経験から生まれたたくさんの視点と余裕

美紀って、本当に潔くかっこいい性格をしていますよね。

彼女は大学入学と同時に新潟から上京し、厳しい状況を自分で切り開いてきた女性。

登場するのは華子と幸一郎の結婚話が進んだ物語の中盤以降ですが、語られる美紀の上京時の様子や東京での暮らしには、心が少し痛んでしまうほど感情移入してしまいました。

私も上京して東京で暮らしているからなのか、美紀が東京というものに抱く印象や、地元に感じる寂しさが胸にくるのです。

この小説について、上流階級の人々を素晴らしく忠実に描いているという評価をどこかで見ました。

それは上流階級にいない私には分からないことなのですが、田舎から上京してきた者が抱く感情については強く、リアルだといえます。

もちろん、すべての人が美紀や私と同じように感じるとはいえないのですが…

上京した者だからこそ感じる、地元の荒廃への焦りと寂しさ。なんとかしたいという思いには、強く共感しました。

潔くてサッパリとした性格の美紀は、頭もよくて優しさもあります。

華子とは一見正反対ですが、だからこそどこか似ていて、分かり合えたのですよね。

正反対って表裏一体ということだから、結局は似ているということなんだなと私はよく思うのです。

それにしても、華子と初めて会ったあとの美紀はかっこよかったですね。

女同士の義理を潔く果たし、その姿は華子にもきっとかっこよく見えたと思うのです。

美紀の発言や考え方には、ハッとさせられるところが多くありました。

こうあらねばならないという呪縛にいつの間にかみんなが捕らわれ、息苦しくなったり他人にもそれを強いてしまったり。

女性は女性で苦しいし、男性は男性で苦しい。それをこうやって性別で分けてしまっていることがすでに、偏った考えなのかなとも思います。

「世の中にはね、女同士を分断する価値観みたいなものが、あまりにも普通にまかり通ってて、しかも実は、誰よりも女の子自身が、そういう考え方に染まっちゃってるの。だから女の敵は女だって、みんな訳知り顔で言ったりするんだよ。若い女の子とおばさんは、分断されてる。専業主婦と働く女性は、対立するように仕向けられる。ママ友は怖いぞーって、子ども産んでもいないのに脅かされる。嫁と姑は絶対に仲が悪いってことになってる。そうじゃない例だってあるはずなのに。男の人はみんな無意識に、女を分断するようなことばかり言う。ついでに言うと幸一郎は、あたしとその婚約者の子をもう分断しちゃってる。もしかしたら男の人って、女同士に、あんまり仲良くしてほしくないのかもしれないね。だって女同士で仲良くされたら、自分たちのことはそっちのけにされちゃうから。それって彼らにしてみれば、面白くないことなんでしょ」

引用:『あのこは貴族』

正反対のような華子と美紀、真ん中にいる相楽さん

東京で生まれ東京でしか暮らせない華子、故郷から離れ東京で暮らす美紀、狭い東京から出て海外で暮らす相楽さん。

華子と美紀だけだと対立関係になってしまいそうなところを、相楽さんが中和してくれている気がします。

結局どこにいても、狭くて窮屈な思いは消えないものなのかも。

それぞれが生きづらい何かを抱えているという点で共通し、うまくバランスがとれていますよね。

華子と美紀だけでは、幸一郎を挟んでどうしても「恋愛・結婚」にフォーカスしてしまいがちです。

相楽さんがいることで、それだけではない、もっと根本的にある女性の生きかたや苦しさに気づきます。

これまで苦労を知る必要のなかった守られた華子と、自分の力で切り開いてきたけれど、世の中の残酷な仕組みを知ることになった美紀。

相楽さんは一見、芸術的な才能で華やかに生きてきた人だけれど…たぶんもっと泥臭く、悔しい思いもたくさんしてきたのではないかな。

だからこそ華子と美紀を繋ぐ役割、中立でいることができたのではないでしょうか。

華子と幸一郎、ふたりがまた同じ未来を見ることはないのか?

これ、どう思いますか?こんな未来を期待するのは、少し楽観的すぎますか。

相楽さんの参加する地方でのコンサートで、華子と幸一郎は離婚以来初めて本音で話をしています。

ふたりとも余計な虚勢を張らず穏やかに話せていて、雰囲気もよくて、家柄が釣り合うという意味ではなくやっぱりお似合いだなと思ってしまう。

ずっとこんなふたりなら、もしかして今度はいい夫婦になれるのではないかな?と妄想してしまうのです。

でも、根っこに冷酷なところのある幸一郎が簡単に変わるとは思えないし、凝り固まった古い上流階級の慣習が変わるとも思えない。

仮にふたりがうまく関係を再構築したとして、一度罵倒されて離れた青木家の中にまた華子は入っていけるのか。

青木家の中で華子が孤立しないよう、幸一郎は彼女を守ることができるのかな。

そう思うと、このふたりは夫婦より少し遠いこの距離感だからこそいい関係でいられる…そう思い直したりもしています。

幸一郎自身は自分がどう生きるかをあらかじめ決められたような出自で、それに対する諦めや割り切りを感じられたこともよかった。

幸一郎のことも、同情できるような気がしました。少しだけ。

おわりに

登場人物のこれからの生きかたが垣間見える、素敵な終わりかたでした。

三人はそれぞれ違う道を歩みながら、どこか影響しあい、支え合っているのですよね。

その姿が、強くてとてもかっこいいと思いました。

私の中でとても好きな小説となったこちら、映画も見てみたいのですよね。

門脇麦さん演じるお嬢様の華子が見たくて。きっと本物のお嬢様と、その苦悩を絶妙な感じで見せてくれるんだろうな。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

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